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水槽も鉄不足?



 鉄が動植物の生産量を左右する絶対不可欠な物質であること、そして遊離酸素のある水中にはイオン状態で長くとどまれないことがご理解いただけたと思います。

 さていよいよ本題です。私たちのテーマとする水槽環境の中で鉄はどのような状態になっているのでしょうか。飼育水の中の鉄は足りているのでしょうか。

ここに市販の鉄試薬にうたわれている鉄濃度の理想値を紹介しましょう。
登場するのはセラ社とデュプラ社、共にドイツのメーカーです。


 
セラFeテスト取扱説明書にある鉄分濃度に対するコメント
  
鉄分濃度 判定及び対策
0.0mg/l 水草にとって望ましくありません。すぐに施肥をしてください。
0.1〜0.25mg/l 栄養不足です。3日以内に施肥をしてください。
0.5〜1mg/l 水草にとって理想的な濃度です。
>1mg/l 鉄分が多すぎます。一部の水替えが必要です。

デュプラテストFe説明書にある鉄分濃度に対するコメント

以下の数値よりも鉄分濃度が高い、または低い場合は対策が必要となります。
淡水・・・0.05〜0.1mg/ℓ
海水・・・0.05mg/ℓ


いかがでしょうか。同じ国のメーカーでも理想値が10倍も違うのです。
私たちはどちらの数値を信じればよいのでしょうか。
いずれにしても鉄イオンのサプリメントを全く添加していない水槽の水を測っても、ほとんどの場合鉄が検出されることはないようです。また長期間水換えをしていない飼育水の場合、鉄イオンはすみやかにリン酸と結びつきリン酸鉄となって沈殿してしまいます。従ってリンの蓄積によるコケの異常繁殖に困っているような汚い水槽では鉄を入れすぎということはほとんど起こりえず、リン酸イオンによる緩衝作用の様なものがまず働くようです。
どうしても鉄分過多を懸念される場合には念のため0.1〜0.3mg/l前後を目安に投入されることをお勧めします。

「二価の鉄」は当初水草への添加剤として考案したものなのですが、意外にも発売開始前に回収した様々なモニターのレポートから海水水槽、特に無脊椎動物に対して絶大な効果があることが伺われる結果となりました。

 水換えの頻度の高い水草水槽にあっても鉄分は不足がちな成分の最たるものであることは多くの水草ファンが経験的に感じられているところだと思います。

「二価の鉄」は当初の目論見通り水草にはほぼパーフェクトな効果を示しました。様々な水草の生長が促され、赤系統の葉がきれいに発色するようになります。
その中で特に驚いたことは多くの水草ファンが頭を悩ます「黒ひげゴケ」がいつの間にか衰えて姿を消すことです。これまでピンセットでむしり取ったり、水草ごと木酢液に漬けたりして決定的な対策の無かったやっかいもののコケが全く見られなくなったのです。
 黒ひげゴケでお困りの水槽に「二価の鉄」を用いられる場合には、一時的でも結構ですから成長の早いハイグロフィラなどの有茎草を大量に植え込んでみてください。有茎草が著しく成長し、トリミングを2、3回繰り返す頃にはハッキリとした効果が認められます。ぜひお試しください。


 海水水槽では弊社が懇意にしているNセンターにサンプルを提供して、店舗内の様々な水槽に添加してもらいました。もちろん最初は半信半疑で小さな水槽から使ったのでしょうが、ある日電話があり、「あれすごいよ、店内の水槽が開業以来の素晴らしい見てくれになったよ!」とのお褒めの言葉をいただきました。
Nセンターからのレポートには、

 
1 リン酸(オルトリン酸)濃度が激減する。
   6ppmあったものが1ヶ月後には0.25ppmにまで下がった。
   給餌をほとんどしない無脊椎動物の水槽では概ね0になる。

 
2 硝酸塩濃度が下がる。
   200ppmあった1tの魚類水槽が1ヶ月後には50ppmになっていた。

 
3 無脊椎動物のポリプの開きが格段に良くなった。

 
4 コケの発生が少なくなり、水槽内面への付着物がなくなった。

 
5 海外から入荷直後の魚の立ち直りが極めて早くなった。

などの効果がうたわれていました。


 これらの評価をもたらした二価鉄の作用に対して考察を加えてみました。これは私の個人的なかつ手前味噌な考え方ですので当然異論があってもおかしくはありません。別の見解がありましたらぜひご指摘ください。


 
1 リン酸濃度が下がる

 リン酸イオンと(二価、三価の)鉄イオンが結合してリン酸(第一、第二)鉄という不溶物となって沈殿し、有害性を示すイオン状態のリンが減ったためです。リン酸試薬はイオン状態の(水に溶けている)リン酸の値を示します。

三価の鉄


2 硝酸濃度が下がる。

 水槽内には硝酸が減少するメカニズムが2つあります。

1つは植物や無脊椎動物の(褐虫藻による)光合成の材料(肥料)として消費されること。
これはそれらの動植物の活性が高まれば当然あり得る話です。

2つめは水槽内の脱窒細菌の働きによって硝酸が還元されたことです。
おそらく水槽内の脱窒細菌の生息量は、日々の水槽への給餌量などによって一定の制約を受けているはずですから一気に増えることはないはずです。従ってその部分が効いたとすれば個々のバクテリアの活性が高まったことや、硝酸を還元する際に用いられる還元酵素の成分として鉄イオンが不可欠であることなどが相乗的に働いたのではないかと思われます。

 水草や海藻、褐虫藻を共生させている無脊椎動物などが同居していれば、1の結果として硝酸塩が使われたことが想像されますが、硝酸塩を消費する生物相が水槽内にない場合には2の因果関係しか想定できません。

 様々な文献には二価鉄の存在が脱窒の効率を高める因果関係がうたわれていますので、具体的な作用機序が明らかにならないまでも二価鉄イオンの添加によって硝酸塩濃度が減少することは大いに期待されるところです。
 ただし、二価鉄イオンの添加のみで硝酸塩が限りなく下がるということはなく、そこには水槽内に同居している脱窒菌の絶対量によって自ずと限界があると考えるべきでしょう。脱窒専用の装置を付加するなどした水槽ではその効率が飛躍的に向上することは十分ありうる話です。


3 水草や無脊椎動物が元気になる

 二価鉄イオンは水槽内で飼育・栽培される動植物にとって必須の元素であることはもうご理解いただけたと思います。もともと限りある 成分量である鉄イオンは、当然のことながら短期間のうちに使い尽くされてしまうのではないでしょうか。鉄イオンのサプリメントを添加していない水槽を市販の試薬で測定しても、鉄分を見出すことはまずありません。鉄分のサプリメントは色々と商品化されていましたが、どれも鉄イオン濃度を明記しておらず、その添加量もかなり曖昧なものでした。果たして有効な濃度を添加できていたのか、はなはだ不安なものでもありました。中途半端な量を投入してもリン酸イオンと結合して沈殿してしまい、効果が出せていなかったのではないかと思われます。鉄分のサプリメントの濃度については次のメネデールの説明の中で触れます。
 従って、通常の管理手法で維持されて来た水槽内では、水草や褐虫藻にとって二価鉄イオンが決定的に不足していることは想像に難くありません。つまり腕利きのスタッフが管理しているプロのショップの水槽でも鉄は足りていなかったのです。
そこにある日二価鉄イオンが潤沢に供給された結果、鉄不足にあえいでいた動植物の多くが、本来の活性を取り戻したのだと思います。


 
4 コケの発生が抑制され、付着物が無くなる。

 コケも付着生物も本来は水槽内の同居者です。どのような生物も生存するためにはある種の基質(餌や肥料)が求められます。その基質は人為的に投与されない限り水槽内でほぼ一定の存在量であることが多いと思われます。同じ基質を摂取する生物は、それを求めて互いに争う競合関係にあります。水槽内では生きて行くための活性が高くなければ、その奪い合いの勝者にはなれません。本来優先種であったはずの競合相手の活性が下がれば、その立場が他の生物に取って代わられる可能性が出てきます。その優先順位を左右するのは飼育水中に増減する様々な物質の過不足ではないかと考えます。窒素やリン酸が蓄積することで死に至る生物もいるくらいですから、それらが増すに従って活性を失う動植物がいてもおかしくはありません。また活性維持に必須な物質が枯渇してしまう場合もあるでしょう。人間でいうところのビタミンやミネラル不足のような症状と考えれば良いでしょう。それらの過不足に対してより柔軟な対応のできる生物がコケや付 着生物なのではないでしょうか。「このごろ元気ないね。そのご馳走食べないの?、じゃ私がいただいちゃいますよ。」といった話です。本来日陰者であった存在の生物種が、競合生物の活性低下によって主役の座を占めるようになったのがいわゆる「きたない水槽」「コケだらけの水槽」なのではないでしょうか。
 そのような水質環境から有害な蓄積物が取り除かれたり、不足していた物質が供給されたりすれば、不調であった生物が本来の活性を取り戻し、彼等の基質となるものの摂取量が増えることになります。相対的に基質の取り分が減ったコケや付着物の勢力が弱まるのは当然の帰結だと考えられます。
「二価の鉄」を添加した場合、減少する蓄積物の最たるものはリン酸、次いで硝酸、不足していたのはもちろん二価鉄イオンであったと考えたいのです。


 
5 どうして新参の魚類の立ち直りが速やかになるのか。

 私たちが懸命に維持管理している水槽環境なるものは、そこに飼われる生物たちにとって必ずしも最善のものではないと考えるのが飼育者に求められる謙虚な思いやりではないでしょうか。特に海水魚の場合、人間の管理下の繁殖によって生産された種の比率は極めて少なく、大部分は自然界から採捕された野生種ということになります。誰が考えても自然海域の水質を水槽の飼育水が上回るなどということはあり得ない話で、少なからず我慢を強いる環境に彼等を放つことになることは残念ながら真実といわざるを得ません。
 硝酸やリン酸の蓄積などとは無縁の水域に生息していた生物を、それらが大量に存在する水槽環境に収容するわけですから、中には未来をはかなんで食を断つものがいてもおかしくはありません。餌付けという行為は所詮生物の飢餓につけ込んだ人間サイドの陰謀でしかありません。
二価鉄イオンの添加によってもたらされる水質の改善は新参の魚介類がぎりぎり譲歩してくれる妥協点にかなり近づくことができるのではないかと期待しているところです。



二価の鉄の成分

 「二価の鉄」には有機酸と結びついた二価鉄イオンFe2+が15,000mg/l含まれています。さしあたっての安全濃度と思われる0.3mg/lの濃度 に二価鉄を添加するには60cm水槽(水量50リットル)に1mlの溶液を入れれば良いことになります。理想的には週に2回程度入れていただくのが良いようです。特にしばらく水換えをしておらず、リン酸イオンの蓄積量の多いと思われる水槽には添加量と頻度を増やしても問題はないと思います。容器には 200mlの溶液が入っていますので、60cmの水槽をお持ちの方が週2回1mlずつお使いいただいても100週分、約2年分の容量ということになります。


メネデールとの比較

 水草用の鉄分添加剤として「メネデール」という園芸用の鉄資材がベテランの愛好者には以前から用いられていました。最近は水草用メネデールなるものも発売されていますが、中身は園芸用のものと変わらないそうです。さてこのメネデールにはどれくらいの鉄が含まれているのか大変興味をそそられるところです。
 インターネット上には50ppmであるというマニアの方の分析結果が出ていますが、それに対してメネデール社からクレームはついていないようですので、大体当たらずとも遠からずといった数値なのでしょう。
 その数値を真に受けるとすると、「二価の鉄」は極めて高濃度の商品といえるのではないでしょうか。メネデールには様々なパッケージがあり、100mlか ら20lまで6種類の容器で売られています。二価の鉄200ml1本に含まれる二価鉄イオンの量はメネデールに換算すると20l容器3本分に相当します。圧倒的な高濃度であることがご理解いただけるかと思います。








二価の鉄の使い方
    
 淡水、海水とも飼育水50リットルに対し、1〜3ml、週に2回ほど添加していただくと、効果の確認が早いようです。「二価の鉄」は有機酸との結合構造 により遊離酸素には酸化されにくいのですが、リン酸との結びつきは強いようです。長く水換えをしていない水槽にはリン酸イオンが蓄積していることが予想されます。リン酸イオンが高濃度にある場合は二価鉄イオンと結合してしまう比率が高く、その分だけ水槽内で活用される有効量が少なくなるとご理解ください。
 「二価の鉄」は水槽内の植物や微生物にすみやかに吸収されますが、中には水中の遊離酸素と結合して酸化鉄、水酸化鉄として、またリン酸イオンと結びつい てリン酸鉄として沈殿するものがあります。それらは一般に黒い沈殿物の形を取りますので、フィルターや濾材が黒く色づくことがありますが、硝化細菌などの活性を阻害することはありません。

溶液のはかり方

「二価の鉄」の容器にはプッシュポンプが付いています。それぞれ1プッシュで200ml容器では1ml、60ml容器では0.25mlの水溶液が押し出されますので水槽の水量に見合った二価鉄濃度となるように添加量を決めて下さい。


 様々なサプリメントを投入される場合、水槽のコンディションを客観的に把握されることは科学的に水槽を管理する第一歩です。それには各種の試薬があると飼育水のコンディションを数値で知ることができます。鉄の効用を考えるようになった時、鉄試薬とリン酸試薬は必須のものと考え購入しました。さほど高価なものではありませんので、皆さんにもお勧めします。

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