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生分解樹脂

脱窒の機序についてもう一度考察を加えます

 硝化細菌は窒素化合物(アンモニアや亜硝酸)や炭酸ガスなどの無機物から生活に必要な要素を取り込む無機栄養の生活様式をとるため、水槽という特殊な環境は彼等にとって絶好の生息環境となります。一方、脱窒の主役である従属栄養細菌は外部から餌となる有機物を取り込み、体の構成材料やエネルギーとして用いる生活様式を持っています。これを従属栄養と呼びます。水槽環境では彼等に必要な有機物が決して潤沢ではないため、その生息量は有機物の供給量によって制約を受けることになります。

 脱窒に炭素源が必要であることのそもそもの意味は、脱窒を行ういわゆる脱窒菌が従属栄養細菌であり、彼等が生存し増殖するためには餌となる有機物という形の炭素源が必要であるということに尽きます。

 一方、脱窒は従属栄養細菌全てが行うものではなく、嫌気環境でも生息が可能な通性嫌気細菌群が、必要に応じて行う生き残るための裏技とでも考えておくべきです。これは好気性生物の人間の発想ですから、本当は通性嫌気呼吸が本業で、好気呼吸が裏技であるのかもしれません。不思議な話ですが、通性嫌気細菌の 増殖率は、好気条件下でも硝酸の存在する環境の方が存在しない環境でのそれを上回ることが明らかになっています。つまり好気と嫌気の双方の生活力を同時に示すことがあり、嫌気の分だけより多く増殖するのです。

 細菌類が利用可能な有機物(炭素源)としては様々なもの(糖類、アルコール類など)が考えられますが、その分子構造は水溶物という形でなければなりません。脱窒を促すためには脱窒能力を持った細菌群(以後脱窒菌と呼ぶ)を増やし、かつ脱窒作用を行う際のエネルギーともなる有機物を供与することが必要となります。間欠的に一定濃度の水溶物を与えるのが良いのか、固形物という形で投入しておき、細菌類自身に必要量を分解させる方が良いのか一長一短あるようですが、水槽を管理する(私を含めた多くの不精者の)立場としては固形物を常時投入しておく方が何かと楽であり、かつ何よりも安上がりです。
 バイオポールは微生物が作り出す貯蔵物質がその由来です。従って多くの細菌類がこれを分解するための酵素を持ち、餌(炭素源)として活用できることが明らかになっています。水槽内の従属栄養細菌に固形物として与える有機物の候補としてはバイオポールを主成分とした生分解樹脂が最も妥当な選択肢になるものと思われます。

 生分解樹脂を脱窒菌の餌として活用するためには、まず樹脂を細菌類が餌として取り込める小さな分子構造に分解する過程が必要です。ここでは好気性、嫌気性を問わず多くの従属栄養細菌群が樹脂表面に生物膜を作ることにより分解作用を受け持ちます。次いで実際に脱窒に関与する脱窒菌の絶対量を維持し、効率よく通性嫌気呼吸をさせるための溶存酸素の少ない還元環境を構築しなければなりません。

 市販のデニボールに見られる多層のヒダヒダは、生物膜が水流によってはぎ取られるのを防ぐ水の停滞域を作る効果が高いのではないかと考えています。まず好気性細菌が定着して生物膜が作られると、通過水の剥離作用を受けにくいヒダの間隙では生物膜の成長に伴い、溶存酸素を利用しやすい表面部とそうでない内奥部との間にはミクロな酸素勾配が形成されます。内奥部では必然的に通性嫌気性細菌の比率が増えて行くのではないかと思われます。
デニボール
写真1 デニボール

 当初デニボールから樹脂成分を溶かし出す役割は、好気性の従属栄養細菌であったはずですが、生物膜の厚みが増すにつれ、やがて樹脂に隣接して生息することのできる通性嫌気性細菌(遊離酸素の供給量が少なくなるので、通性嫌気呼吸ができる細菌群でないと、そのような場所では生きて行けない)がその役割を果たすようになると想像しています。

 すなわちデニボールは、多くの従属栄養細菌の繁殖を促す「餌」としての組成の他に、細菌群の「繁殖場所」としての形状を合わせた2つの意味合いで考えなければなりません。デニボール単独でも脱窒がなされる理由は材質のみの効果ではなく、閉塞域を作りやすいそのヒダ構造が大きな意味を持っているのだと思い ます。大変よく考えられた形状だと感心します。従ってデニボールのようなヒダヒダを持たない単なる樹脂板を用いる場合、水流によって生物膜を剥離させず、 脱窒菌の占有率を高めるための工夫が必要となります。
 細菌群が増えるに従って、通性嫌気性細菌(完全な脱窒に至らないまでも還元だけは行う)の比率が高まり、さらには完全脱窒をするいわゆる脱窒菌が優占種となる必然性が求められることになります。


 脱窒の試みをされる方には是非とも知っておいていただきたいことがあります。脱窒は細菌による還元作用によってもたらされる現象であり、最終的に窒素ガスとして大気中に放散される場合も、同化還元的にアンモニアに戻る場合も、その還元過程では必ず亜硝酸という中間物質を経るということです。

    
NO3→ NO2→ NO→ N2O→ N2    異化還元
         ↓
         NH3       同化還元


硝酸が減っても亜硝酸やアンモニアが増加したのでは危険が増すばかりで何の意味もありません。従って脱窒装置を稼働させた当初、必然的に増加する危険物質は、再度硝化過程に送り込むのが賢明な安全弁と考えておいて下さい。

 必ず上昇する亜硝酸濃度ですが、いつまでも危険濃度を維持する訳ではありません。なぜならば、亜硝酸の絶対量が増えれば、それを基質とする亜硝酸酸化細菌も必然的に増え、やがて亜硝酸の生成量に見合ったボリュームになるからです。ただ残念ながら亜硝酸酸化細菌の増殖スピードが大変遅いため、その均衡が成立するまでに若干のタイムラグが生じてしまうということなのです。私の経験では2週間から1ヵ月程度で平常値に戻ります。この間は新規に濾過槽を立ち上げるのと同じような経過となりますから、亜硝酸によるトラブルを懸念される場合には、脱窒させる飼育水の硝酸濃度をあらかじめ(水換えによって)下げておかれるのも良いでしょうし、装置に充填する生分解樹脂を少量から始め、徐々に増やして行くのも良いでしょう。

 装置を通過する飼育水は、強弱の差はあっても生物膜の表面を流れる訳ですから、水溶物となった樹脂成分の何割かは水流に乗って脱窒エリアから外部に流れ出ることは避けられません。それが分解量の何%になるのかはわかりませんが、水流の強弱や樹脂の形状、そして樹脂成分を消費する生物膜の厚さなどが微妙にかかわってくるものと思われます。

 唯一懸念される事態は、水溶性となった樹脂成分は病原菌のような細菌類にとっても餌となりうる物質ですから、彼等の増殖を促すこともない話ではありません。しかしこれまでデニボールの利用者から病気が出やすくなったというクレームは1件も聞こえて来ませんので、トラブルを引き起こす可能性はほとんどないと考えてます。
 いずれにしても生分解樹脂の分解成分は脱窒菌の餌として用いる訳ですから、積極的に水槽内に還流させることは本来の目的外のことですので、その功罪についても推論を立てておくことにしましょう。


バイオポールとは

 プラスチックは生活や産業、医療など、あらゆる分野で幅広く役立っています。しかし、使用済みプラスチッ クの処分は、プラスチックがあまりにも安定な物質であるため、大きな環境問題となってきています。一方、天然にある素材をポリマー化して、いわゆる生態系での生分解を意図した研究が近年盛んになってきました。
生分解性プラスチックは次の6つのグループに大別されます。

○生分解性プラスチック
 1.微生物が作り出すもの:
       ヒドロキシブチレート(PHB)とその誘導体
 2.天然にあるもの: 酢酸セルロース・ニトロセルロース
 3.合成でできるもの: ポリエステル−ナイロン共重合体
 4.天然−合成高分子の複合体:
       アミロース−ポリエステル共重合体

○ 生物崩壊性プラスチック
 5.でんぷん−ポリエステルのブレンド体
 6.脂肪族ポリエステル−汎用プラスチックのブレンド体

 これらの樹脂の中でバクテリアに最も分解されやすいのは 1 のグループの 「ポリヒドロキシ酪酸」 (以下このポリマーを[P(3HB)]と略記します)ですが、モノマーユニットが ヒドロキシ酪酸 だけのものは融点と熱分解温度が近すぎて成形しにくく、又構造材としてみた場合、脆いなどの欠点があるため、3HBに少しだけ3HV(ヒドロキシバリレー ト:ヒドロキシ吉草酸)をランダム共重合させたタイプのものが、1982年に英国ICI社で開発され、1993年以降ICIから分社化したゼネカ社から 「バイオポール」(Biopol)の名称で販売されています。

 P(3HB)は、原核生物のみに存在する生体高分子で、菌が餌にありつけない非常時にこれを酵素で加水分解して利用し、生き延びるための菌体内貯蔵物質です。P(3HB)は1925年に巨大枯草菌(Bacillus megaterium)の菌体から初めて発見されたそうですが、今ではP(3HB)を合成するものとして、枯草菌(Bacillus属の一部)の外、
水素細菌(Alcaligenes属)
窒素固定菌(Azotobacter群)
土壌菌(Pseudomonas属の多種)
根粒菌(Rhizobium属)
藍藻の一部(Aphanothece)
光合成細菌(Rhodospirillum属)
メタノール資化菌(Methylobacterium)
2種類の腸内細菌
など100種以上の原核微生物が発見されています。

 P(3HB)を合成出来るものは当然、その分解酵素である 《PHBデポリメラーゼ》 を保有していることになり、幅広い菌種でP(3HB)が認められることは、P(3HB)が脱窒菌用の炭素源としての有効性を示唆するものです。


上記バイオポールについての解説は上野 隆史氏のホームページ (Wild Discus 飼育の為の)「水質管理の基礎科学大綱」を参考にさせて頂きました。

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