ウンコに値がつく時代が来る!(その3)

 ウシやヒツジは草を消化できない?シロアリにもできない。

 偶蹄目(ひづめが複数に分かれているほ乳類、実はクジラも含まれる)と呼ばれるウシやヒツジなどの草食動物はその名の通り「草を食べて」生きているのですが、実は彼等自身の消化機能だけでは植物を分解して栄養素を取り出すことができません。彼等の消化器の中には植物の繊維を分解してくれる細菌が大量に棲み着いており、発酵作用によりセルロースなどを分解してエネルギーを得ています。細菌が棲み着いているのは人間のように腸ではなく第一胃と呼ばれる臓器(ホルモンでいうところのミノ)ですので”腸内細菌”と呼ぶことに若干の異論もあるようですが、その由来は餌となる植物と一緒に取り込まれたものであることは明らかですからさほど神経質に考える必要はない思います。  私たち人間はグルコース(ブドウ糖)を主なエネルギー源として使っていますが、ウシやヒツジなどの反芻(一度食べたものを吐き戻し、噛み返すこと)動物はブドウ糖よりももっと小さな分子構造をしている短鎖脂肪酸と呼ばれる物質をエネルギー源としておりその代表的なものは酢酸、酪酸、プロピオン酸などです。

 実は私たち人間もセルロースを分解することはできず、ウシやヒツジと同様に腸内細菌の力を借りて短鎖脂肪酸を作っています。人間にとって短鎖脂肪酸はエネルギー源の大部分ではないため命に関わるほどの重要なものではありませんが、短鎖脂肪酸には大腸の炎症やアレルギー反応を抑えたり、肥満や糖尿病を改善するといった重要な働きがあり、その他にも腸の蠕動運動や大腸表面の細胞が水分や無機物を取り込むことを促したりします。食事に食物繊維が不足すると便秘になりやすいのは結局のところ繊維の発酵分解から作り出される短鎖脂肪酸不足と因果関係があるようです。

 ちなみに私たちの大事な住居を食い荒らすシロアリですら木材からかじり取ったセルロースという植物繊維を分解することができません。そうです、彼等の腸内にもセルロースを分解してくれる細菌群が棲んでいるのです。

 短鎖脂肪酸の役割

 腸内に短鎖脂肪酸が供給されると腸内のpHが弱酸性に維持されることになります。今のところ悪役に見られている、いわゆる悪玉菌と呼ばれる腸内細菌のグループが出す酵素は酸性側の環境では活性が抑えられるため発がん物質や腐敗産物ができにくくなり、腸内環境が健康に保たれることになります。また私たちが食物として取り込んだカルシウムやマグネシウムなどのミネラルは酸性の環境下では容易に水に溶けやすくなりますので、短鎖脂肪酸の存在はそれらの成分の吸収を助け、ミネラル不足を補うことができるのです。

 私たちを病気から守ってくれる免疫反応もたまにミスをするようで誤って自分の体を傷つけてしまうことがあるのだそうですが、短鎖脂肪酸にはそのような誤った反応を抑える細胞を増やして体が傷つくのを防ぐ働きもあります。  短鎖脂肪酸である酪酸は乳製品から、酢酸はお酢からも摂取できますが、口から入った食物の栄養の大部分はすぐに分解されて小腸で吸収されてしまうため、それを待ち構える細菌群が棲む大腸にまでは届きません。結局大腸で必要とされる酪酸や酢酸は大腸内で作らなければならないのです。そのためにはその材料となる消化されにくい食物繊維などを摂取して大腸まで送り届ける必要があります。短鎖脂肪酸は腸内に食物繊維がある限り、細菌の働きで少しずつ分解されて放出されるため効果が長続きします。大腸の病気や便秘で苦しんでいる方は何にも増して野菜や海藻類など食物繊維を含む食材を日々積極的に食べることです。

ヒトの大腸内発酵の基質(原料)

発酵基質

1日当たりの供給量

レジスタントスターチ 8~40g
非でん粉質の食物繊維 8~18g
オリゴ糖・糖アルコール 4~14g
タンパク質(消化酵素など自身の体由来) 5~18g
難消化性タンパク質(食事由来) 4~10g
ムチン 2~3g

 

食物繊維の発酵で生じる短鎖脂肪酸の割合

食物繊維 酢酸  プロピオン酸   酪酸
レジスタントスターチ  41%  21%  38%
小麦ふすま 61%  19%  20% 

ペクチン

 71%  15%  8% 
 グアーガム  58%  27%  8%
オーツプラン  57%   21% 22% 
フラクトオリゴ糖  78%   14%  8%

※出典 坂田隆、市川宏文 短鎖脂肪酸の生理活性(日本油化学会誌Vol.46)

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