ウンコに値がつく時代が来る!(その6 最終回)

 腸は第二の脳

 脳の神経伝達物質として「セロトニン」の存在が知られています。じつはこのセロトニンの95%が腸内で作られているという報告があります。
腸には多くの血管や神経が集まっています。その為、腸のコンディションは全身に伝えられることになります。またどうやらその逆のパターンもあるようで、人が極度の緊張を覚えると急激な下痢や腹痛に襲われたり、旅先では便秘になってしまう人がいることなどはよく知られています。これは脳の活動が腸のコンディションをもコントロールしていることの証しです。
 腸内フローラは人の性格にまで影響を及ぼす可能性があるようです。マウスを使った実験ですが、臆病なマウスの腸内に活発なマウスの便(腸内細菌)を移植すると、臆病だったマウスが活発に行動するようになったというのです。口八丁手八丁というものは人生における一つの才覚であり人徳として評価されることもあります。一方私たちの周りには人前に出ることの苦手な、いわゆる引っ込み思案な人もおり、せっかくの優れた性格や才能が評価されない場合があります。このような個人差が腸内フローラのもたらすものだとしたらどうでしょう?
 これもマウスの実験で分かったことです。肥満マウスの腸内フローラを無菌マウスに移植すると移植されたマウスはそれまでと同じ食事を与えられたにもかかわらず肥満になったというのです。日々ダイエットに励む貴女、貴女の肥満体質は誰の所為でもありません。犯人は腸内フローラです。貴女が捨て去りたい皮下脂肪は捨てても捨てても働き者の腸内細菌がかき集めてしまうのです。

 そこで誰もが思い至るのは「私の腸内フローラを変えることはできないものか?」という素朴な疑問と可能性への期待です。

 腸内細菌を移植すると病気が治る

 さあいよいよ本題に近づいてきました。近年の腸内細菌の研究結果からいくつかの病気と腸内細菌との関連が解明されつつあります。自閉症やうつ病などの精神疾患、糖尿病、腸炎、アレルギー疾患などは腸内細菌との因果関係が疑われています。
 医療技術が進んだ現代でも原因や治療方法の分からない難病と呼ばれるものがまだまだ存在します。もし病気に苦しむ患者さんの腸内フローラを変えることで難病の症状が改善される可能性があるとすればどうでしょう。治療方法の見つかっていない病に貴方が苦しんでいるとしたらどうしますか?

 そこで近年提唱された治療方法が「便微生物移植」と呼ばれるものです。
腸内フローラが原因と考えられる病気に苦しむ患者さんの腸内に健康な人の腸内細菌を移植するというものです。お断りしておきますが、ウンコそのものを移植するわけではありませんよ。健康な人の便を溶かして濾過し、そこから抽出した腸内細菌をチューブで患者さんの腸に送り込むという方法です。2014年から日本をはじめとした世界各国ですでに試験施療が始まっており、従来の治療法では効果が得られなかった「難病」の治癒率が向上しているそうです。さらに治療効果の認められる腸内フローラを錠剤とし、経口投与する方法も研究が進んでいます。治療法すら見つからない様々な難病に苦しむ患者さん達にしてみれば、目の前に一筋の光明が差し込んだ思いでこの話を聞いているのではないでしょうか。

 その昔、江戸の町に住む庶民の大部分は長屋と呼ばれる共同住宅に住んでいました。長屋には風呂も便所もついていません。風呂は銭湯に行き、庶民の社交場となっていましたが、便所の方は長屋の一隅にある共同便所を使うしかありませんでした。もちろん現代のような水洗便所などというものは無く、いわゆるボットン便所であったのです。共同便所に溜まった住人の糞尿は近在のお百姓さんが定期的に訪問し、耕作地の肥料にすべく汲み取って行きました。
 当時の江戸周辺は芦原を開墾して作られた耕作地が多く、地味に貧しい(土地がやせていた)為、様々な施肥をして作物を作る努力がなされていました。落葉樹の(葉っぱの落ちない杉や檜では駄目)雑木林を作って落ち葉を集めて堆肥を作ったり、乾燥させた江戸前の魚介類を肥料として撒いたりもしていたのです。そのような農業事情からは糞尿に付加価値が見出されたのは当然のことでした。共同便所に眠るお宝は長屋のオーナーである大家さんの副収入として対価が払われていました。
 当時世界で一番清潔だった言われる江戸の町でしたが、下水道がなくとも糞尿のリサイクルシステムが確立されていたことは驚くべきことで、先人の知恵に敬意を払わずにはいられません。まさに循環社会の先駆けとして江戸の町は評価されるべき存在だったのです。今でこそ江戸の風物詩のようにもてはやされている武蔵野の雑木林などというものも、当事者であるお百姓さん達にしてみれば必死の思いで林を造り、農耕地への肥料対策に役立てていたのです。関東ローム層(赤土)上にあった江戸周辺の耕作地はそれほど有機物肥料の不足に苦しんでおり、対価を払ってでも入手したいお宝だったのです。ウンコが売れた良き時代の話です。

 さて話を本題に戻しましょう。
 将来の医療の世界には「便微生物移植」が定着する可能性が高いと私は夢想しています。するとそこでクローズアップされるものは、より健全で優秀な腸内フローラということになりそうです。臓器移植で求められるドナーのようなものですが、臓器と違って提供者のフローラが減ったりなくなってしまったりすることはありませんから、おそらく提供を躊躇する人はいないでしょう。なぜなら私たちが食事をしている限り際限なくフローラは再生されるものだからです。「お金になるのなら是非売りたい」と提供を申し出る人が押し寄せるかも知れません。それだけに提供者の健康状態や精神の健全さなどに厳密な事前調査が求められるかも知れません。健康な人々の腸内細菌にはプレミアム付きの評価が下されると思います。あるいは「人物」としての評価が高い人や著名人、スポーツ選手であるならば「彼のフローラなら1億払っても良い」などと相場が一人歩きを始めるかも知れません。うちの息子に大谷翔平のフローラを入れてくれとか、私のフローラはキムタクと一緒なのとうっとりする女性も出てくるのでしょうね。「旦那、いいウンコの出物があるっすけどね」などと声を掛けてくるダフ屋ならぬウンコ屋などという商売が成立するかも知れません。フローラの売買で一財産作るなんて”臭い商売”が出て来るのかな?

 ちょっと古い話で恐縮ですが、その昔アメリカの著名なプロゴルファーでジャック・ニクラウスという選手がいました。当時の彼のトーナメントの稼ぎはせいぜいウン千万円かそこいらだったのですが、彼のロゴマークである「ゴールデンベア」が人々のセーターの胸元に輝くだけで数億円のロイヤリティーが懐に転がり込むという話に驚いたことがあります。スポーツ選手になるならばウンコに値がつくほど有名にならなきゃ駄目だよと言われる未来が来るかも知れません。

 

 

腸内フローラを良くする方法について長々と述べて参りました。

まさにウン良く健康な腸内環境を構築することに成功し、スリムな体型と闊達な性格を手に入れたあなた。

血圧も血糖値も模範的な数値を誇るあなた。

あなたのウンコにはどれほどの値がつくのでしょうか?

ウンコに値がつく時代が来る!(その1)に戻る