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Answer Fe++1

Q 二価の鉄を投入すると水中のリンが減るとのことですが、日頃のメンテナンスはどうすればよいのでしょうか。

A リンは水中では様々な化合物の形をとり、大部分は陽イオンと結合した不溶物(○○リン酸塩、固形物)として水底に存在しています。飼育水内に存在するのは水に溶けた状態のリンで一般的には『オルトリン酸』と呼ばれています。
リンの試薬が測っているのはこの水に溶けている状態のリンの濃度です。

 リンは飼育生物にとって毒なのか? そんなことはありません。
『窒素、リン酸、カリ』は植物の三大肥料として必須のものです。
遺伝に関係するRNA(リボ核酸)やDNA(デオキシリボ核酸)の構成要素としてもリンは欠かせません。また生物のエネルギー反応はATP(アデノシン三リン酸)という物質を介して行われています。
すなわち生命の周辺には常にリンの存在があるのです。
詳しく説明すると難しくなりますので簡単に言います。
『リンは必須の元素ではあるが、それが過剰になると悪さもする』とご理解頂ければ良いと思います。

 自然水域の富栄養化という環境問題がリンの過剰によって引き起こされていることをお聞きになったことがあると思います。
洗剤メーカーがリンの含有量を減らした洗剤の開発にしのぎを削っているのはその為です。家庭排水の多くを占める洗濯排水からリンを減らすことで、それが流れ込む自然環境の保全に寄与したいという企業努力の一環です。
それと同様なことが私たちの管理する『水槽の世界』でも起こりうるのです。
リンは必須の元素ですから必ずしもゼロにする必要はないのですが、あまりにも蓄積量が多くなると水槽環境が破綻する可能性があるのです。

 様々な物質が生物の体内に取り込まれる時には物質の化学的構造が細胞膜を通過できる状態でなければなりません。
細胞膜の基本構造は植物やバクテリアはもちろん魚も人間もそれ程大きな差はありません。物質が細胞膜を通過できる(つまり動植物の体内に取り込める)のは水に溶けている水溶物の状態でなければなりません。良く耳にする○○イオンという呼び方はそのような水に溶けた物質の呼び方であると取りあえずは理解しておいてください。

 飼育生物に餌を与えると餌の成分の一つであるリンは飼育生物の消化器官で吸収されますが、それ以外は糞として水中に放出されることになります。また飼育生物が捕食しなかった餌は残餌としてそのままの形で水中に放置されることになります。すると糞も残餌も飼育水中の様々な微小生物によって再度分解され、その構成成分の多くは植物、あるいは目に見えない存在である様々な微生物群によって消費されます。しかし消費しきれなかったリンは取りあえずオルトリン酸として飼育水中に溜まり続けて行きます。

 オルトリン酸は水溶物ですから良きにつけ悪しきにつけそれを必要とする生物に取り込まれるのですが、過剰になると本来水槽環境内では日陰者であった様々な生物群の繁殖(繁茂)を助長することになり、結果として管理者が意図しない水槽景観がもたらされることがあるのです。

 水槽の景観破壊の原因の多くは過剰なオルトリン酸によってもたらされることが多いようです。そこでオルトリン酸の絶対量を減らせばきれいな水槽を維持しやすくなるはずです。前述したとおりリンは様々な陽イオンと結合して○○リン酸塩となって不溶化し水底に沈殿する性質があります。
水中には元々ナトリウムやカルシウム、カリウムなどの陽イオンが存在しますが、それらの全てがリン酸と結合できるわけではなく、自ずと限界があるようです。一方二価鉄イオン(二価の陽イオン)は生物の生存に必須の元素であるばかりでなく、他の陽イオンよりもリン酸イオンと結合しやすい電位を持っていることから、適当な陽イオンと結合できずに飼育水中であぶれていたオルトリン酸(リン酸イオン)と結びつき不溶性のリン酸鉄となり沈殿物として水底に落ちて行きます。

 不溶性の固形物となったリン酸鉄は生物の細胞膜を通過することができません(動植物が取り込めない)ので、生体の生命活動には無縁の存在となります。すなわちリンは不溶物として水底に沈めてしまえば水槽景観を破綻させるような生物群の跋扈が抑制され、水槽の美観が維持されるというわけです。

 ここで知っておいて欲しいのは二価鉄イオンを供給し続けてもオルトリン酸は決してゼロにはならないという原理があることです。
リンが生体の生命活動に必須の元素であるという観点からすれば、使える状態のリンが全くのゼロになることは逆の意味から生命体に必須の元素の飢餓がもたらされることになります。
 神様はその辺もよく考えてくれていました。
オルトリン酸の絶対量が枯渇状態に近づくと、水底の○○リン酸塩が溶け出して微量のリンを水中に放出してくれるのです。従って生命活動に必要な最小限のリンは常に供給されるという極めて好都合な補充反応がリン酸塩とオルトリン酸の間にはあるのです。
本当に自然界は良くできていると感心をします。

そこで結論です。
沈殿物としてのリン酸鉄を積極的に除去することにはあまり意義を感じません。数ヶ月に一度程度の通常の底砂のメンテナンスの際にヘドロ類と一緒に軽く吸い出す程度で十分だと考えます。

私はどちらかというと底砂大切派を自認しています。
底砂には様々な有用微生物が大量に繁殖しており、濾過槽に匹敵する浄化機能を秘めていると考えています。また脱窒の何割かも底砂のエリアが受け持っていますので、大々的な掃除はほとんどしません。

以上ご参考になれば幸いです。